重箱のおすみつき

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明日役立つ:ドップラー効果を受けた黒体放射スペクトル

"黒体放射スペクトル"という言葉を聞いたことがありますか?

今回は、明日役立つ知識として、 黒体放射スペクトルがドップラー効果を受けても、黒体放射スペクトルのままだということを紹介します。

黒体放射スペクトルのままというのは 関数の形が変わらないという意味だと思ってください。

関数の形が変わらないというのは、例えば、変数\(x \)、パラメータ\( p \)の関数 \( f(x; p) = px \) を考えて、

変数\( x \) を \( x \rightarrow x' = ax \) に変換することを考えます。 \( x = x'/a \)を代入して、

$$ f(x; p) = f(x'/a; p) = \dfrac{p}{a} x' = f(x'; p/a) $$

と書くことができ、さらに、パラメータを新たに \( p' = p/a \) と書けば、

$$ f(x; p) \rightarrow f(x'; p') \quad (x \rightarrow x' ) $$

と表すことができます。

変換後も同じ関数\( f \) を用いて表せるので、関数の形が変わらないと言っています*1

※「明日役立つ」かどうかはあなた次第です。

目次

黒体放射スペクトル

簡単に黒体放射スペクトルをおさらいしておきます。

黒体放射スペクトルというのは、 黒体から放射される電磁波の強度分布のことです。

黒体というのは、文字通り黒い物体のことです。

黒体放射は黒体輻射と呼ばれたり、 また黒体放射スペクトルはプランク分布とも言います。

黒体放射スペクトルは、黒体の温度をパラメータとした、 波長あるいは周波数の関数で記述される電磁波の強度分布\( I(\nu; T) \)です。

式とグラフを書いておきますね。

$$ \begin{aligned} I(\nu; T) d \nu = \frac{8 \pi}{c^{3}} \frac{h \nu^{3}}{e^{h \nu/k_\mathrm{B} T} - 1} d \nu \end{aligned} $$

ここで、\( \nu \)は電磁波の周波数、\( T \) は黒体の温度、\( \pi \)はご存知の通り円周率、\( c\)は光速、\( h \) はプランク定数、\( k_\mathrm{B} \)はボルツマン定数を表します。

次にグラフです。黒体の温度が6000K(ケルビン)のときのスペクトルです。およそ太陽の表面温度くらいですね。

ちなみに、炭を焼くと赤くなるのは、炭の温度が高くなるにつれて、 赤い光の波長の強度が大きくなるためです。

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図1:黒体放射スペクトル(温度6000Kの場合)

ドップラー効果

ドップラー効果についてもおさらいします。

ドップラー効果とは、波源に対して観測者が運動することによって、

波源で放射される波の周波数\( \nu \)と観測される波の周波数\( \nu' \)がずれる現象です。

いろいろ端折って、比例定数\( a \)を用いて、

$$ \nu' = a \nu $$

と書くことができます。

この式が意味するのは、どの周波数の電磁波も一様に\( a \)倍されるということです。

ドップラー効果を受けた黒体放射スペクトル

ドップラー効果によって、全周波数成分は 一様に\( a \)倍されることを見ました。

では、黒体放射スペクトルの式はドップラー効果を受けるとどのようになるか計算してみます。

黒体放射スペクトルの式に先ほどのドップラー効果の式を代入して、

$$ \begin{aligned} I(\nu; T) d \nu &= I(\nu'/a; T) d \left( \frac{\nu'}{a} \right)\\ &= \frac{8 \pi}{c^{3}} \frac{h (\nu'/a)^{3}}{e^{h (\nu'/a)/ k_\mathrm{B} T} - 1} d \left( \frac{\nu'}{a} \right)\\ &= \frac{1}{a^4} \frac{8 \pi}{c^{3}} \frac{h \nu'^{3}}{e^{h \nu'/ k_\mathrm{B} (aT)} - 1} d \nu' \\ &= \frac{1}{a^4} I(\nu'; T/a) d \nu' \end{aligned} $$

となりました。

関数全体が定数倍 \( 1/a^{4} \) されていますが、関数の形は保ったままとなりました。

よって、ドップラー効果を受けた黒体放射スペクトルも黒体放射スペクトルである、と結論づけられました。

この式は、ドップラー効果によって温度が\( T \rightarrow T' = T/a \) の黒体のように観測されると解釈することができるでしょう。

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)

周波数が定数倍されても黒体放射スペクトルのままである実例といえば、 宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background)があります。

ビッグバン宇宙が晴れ上がるときは、温度3000Kの黒体とみなすことができます。 現在は宇宙が膨張して、波長が一様に引き伸ばされているはずです。 これは宇宙論赤方偏移によるものです*2。 ここまでは理論のお話で、 理論が正しければ、現在の宇宙は温度2.7Kの黒体放射スペクトルが観測されるというものです。

そして、実際に観測されました!

宇宙背景放射のスペクトルは 理論通りの黒体放射スペクトルによく一致していました。

ご興味があれば、黒体放射とか宇宙論などのキーワードで調べてみてください*3

変換しても関数の形が不変となる条件は?

冒頭で少し触れましたが、 \( x \)が変数で、\( p \)が関数のパラメータの、ある関数 \( f(x; p) \)を考えます。

ここで、\( x \rightarrow x'=ax \)という変換をおこなったとき、 任意の定数\( c \)と新たなパラメータ\( q \)を用いて

$$ f(x; p) \rightarrow c f(x', q) $$

と表すことができるのは、関数\( f \)がどんな条件を満たすときなのでしょうか?

何か名前とか付いていたりしますか?

数学に強い人、だれか教えてください。

まとめ

ドップラー効果を受けた黒体放射スペクトルは、黒体放射スペクトルのままでした。

自然は良くできていますね。

※「明日役立つ」かどうかはあなた次第です。

*1:この辺り、数学的に正しいかは、各自確認してください。

*2: これはドップラー効果じゃないだろうというツッコミはおいといて

*3: 羽澄さんの講演スライド を読んでみてはどうでしょうか。(PDFファイルで6MB)